鏡の中のあなたが映し出すものは、あなたの未来。
一日に何回となく鏡を見る私たち。身だしなみを整えるために見るのはもちろんですが、街を歩いていて突然ガラスの向こうに自分を見出すこともありますね。自分の姿を横目に、背筋を急に伸ばして、“颯爽と歩く自分”を演じようとするわけです。ほかの人が見ているわけでもないのに、他者からどう映るかを気にしてしまう私たちなのです。
または、鏡に映った自分の姿を見て、自分に対する負の感情が浮かぶこともありますね。「なんであんなことを言ってしまったの?」「いつもドジをする。ダメな人ね」「良いところなんて一つもない」と、鏡の中のあなたがそうつぶやいてくる経験です。
自分を映す「鏡」。それは何なのでしょう。今回は「鏡」について、お話しします。
こんにちは、日本セルフエスティーム実践協会(JSELジェイセル)の小西です。
もし今、自分を映し出す「鏡」がこの世の中になかったとしたら、自分の姿を見ることはありません。
人類が最初に自分の姿を映し出したのは、水面(水鏡)であると考えられています。初めて水面に映った自分を見て、「誰だ?」と、ドキッとしたかもしれませんね。

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そういえばSNSの画像で、子猫が初めて、鏡に自分の姿が映ったときの驚いた様子を見たことはありませんか。子猫が動くと同じように動く鏡の中の子猫に、仲間と思ってその猫(自分自身とは知らずに)を探して、鏡の裏に回ったりします。
私たちも、もしかすると水面を見て、手を差し伸べる行動をとっていたかもしれませんね。この「鏡」は、「わたしは何者かを教える鏡」と言えます。
そして「鏡」と言えば、ディズニー映画の『白雪姫』が有名ですね。
そこに出てくる意地悪な継母である女王が、「鏡よ、鏡、この世界で一番美しいのは誰?」と鏡に訊きます。いつもなら「それはあなたです、女王様」と答えていた魔法の鏡が、あるとき「白雪姫が一番美しい」と答えたのです。
意地悪な女王にしてみたら、「それは女王、あなたです」と答えていたのに、自分が一番でなくなったことで、白雪姫の暗殺計画を立てるのです。毒リンゴを食べさせて白雪姫は昏睡状態に。最後は、魔女となった女王は転落死してしまい、白雪姫は王子からのキスで目覚めて、ハッピーエンドに終わるストーリーでした。
この中にある魔法の鏡は、嘘偽りのない絶対的な「真実を語る鏡」として登場しています。
別の視点で、他者が映した自分の写真を「鏡」と捉えてみることもできそうです。昔、デッサン教室に通っているころ、知らないうちに写真に撮られたことがありました。その写真には、いままで見たこともない表情をした私の横顔があったのです。
撮ってくれた人は、なぜこの瞬間にシャッターを切ったのだろうか。わたしの顔に何を見たのだろうか。その人には、わたしがどう映っていたのか。そんな興味が次々と湧きます。
そして私自身は、「なぜこんな表情だったのだろうか」と、自分の内面を探る機会になったことを思い出しました。他者が映した写真は、「新たな自分を映す鏡」と、言えるかもしれません。
「鏡」に着目した社会心理学者チャールズ・ホートン・クーリーを紹介します。
チャールズ・ホートン・クーリーが提唱した「鏡映的自己 (Looking-glass self)」という理論があります。
「鏡映的自己 (Looking-glass self)」とは、「他者との相互作用や他者の評価を通じて、自分の自己意識や自我(Self)が形成される」という社会心理学の概念です。
自己は単独で存在するのではなく、他者の心を「鏡のように見立て」、そこに映し出された自分の姿(イメージ)を想像することで自己が構築されると考えます。イメージを想像するとは、イメージをあなたが思考するということです。
鏡映的自己は、主に以下の3つの要素から成り立っています。
1.他者から自分がどう映っているかの想像
●たとえば「あの人は、私のことを賢いと思っているだろうか?」
●自分の外見、態度、行動が、相手の目にどう映っているかを想像する。
2.その創造された姿に対する他者の評価の想像
●たとえば「あの人は、私のこの行動を良いと評価しているだろうか?それとも悪いと評価しているだろうか?」
●想像した自分の姿に対して、相手がどのような評価をしているかを想像する。
3.その創造された判断に基づく自己感情の発生
●「評価が良いと想像できれば誇りや自信を感じる」逆に「評価が悪いと想像すれば恥や屈辱を感じる」。
●想像上の他者の評価を内面化し、それによって“自己に対する感情(セルフエスティーム)”が生じる。
重要なことは、実際に他者がどう評価しているかではなく、“あなたが「他者が自分をどう評価しているだろうか」と想像すること”で、自己の感情やアイデンティティを形成する力を持つというのがこの理論の核心です。
わたしたちは、他者から自分がどう映っているかが気になる存在なのです。自分自身を見ることがない私たちは、鏡や他者からのフィードバック(外見、態度や、行動)から、想像するしかありません。
鏡映的自己が示唆するもの
ヒトは社会的な動物です。「鏡映的自己」とは、”私”という意識は生まれつき孤立した形で存在しているのではなく、社会との相互作用の中で発達し、常に更新され続ける社会的な動物であることを示しています。
つまり、他者との関わりや、鏡に映る自分を見ることを通して、「自分とは何か」という自己像(アイデンティティ)を形成します。鏡は、この自己の確立という重要な発達過程(心理学における鏡像段階*など)に不可欠な役割を果たしているのです。
私たちは無意識のうちに、他者のまなざし(あるいはそれを想像したもの)を基準として、行動や態度を調整し、社会に適応した自己を築き上げています。現代のSNSにおける他者の「いいね!」やコメントを気にする心理なども、この鏡映的自己の現代的な現れと言えますね。
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鏡は、「見られたい自分」と「見られたくない自分」、そして「ありたい自分」という複数の自己像を巡る尽きることのない探求のテーマです。
自分を映し出すすべてが「鏡」になるといえますが、あくまであなたが鏡をどのように受けとるかで大きく変化します。なぜなら、あなたの外見、態度、行動によって、相手がどのような評価や判断を下しているかを あなたが思考しているからです。
他者のあなたに対する評価は、あなた自身が想像した評価なのです。あなたの受け取り方しだいで、あなたの感情がどう感じ、どのようなセルフエスティームを受け取ったのかが決まってしまいます。
あなた自身が、「ありたい姿」はどのような外見、態度、行動をとるのだろうかと、あなた自身が具体的にイメージして明確にしておくことが大事です。そして「あなたの外見、態度、行動が、相手の目にどう映ったか」をあなたが判断し「ありたい姿」に相応しかったかどうかを評価し、あなたの「ありたい姿」に近づいていくことができます。
一歩一歩あなたの望んだ“ありたい自分”を見つけだすことで、あなたの未来が一歩前に進んでいきます。
鏡の中のあなたが映し出すものは、あなたの未来なのです。
鏡は、自分という存在を確認するための大事なツールです。あなたの「ありたい姿」を実現するための「鏡」を大事にしていきたいですね。
鏡像段階*:精神分析学で生後6~18カ月の幼児が、鏡に映った自分の像を世界に属している自分の像として認める段階。人間が人間になる重要な成長期で、これを契機として自我が発生するとされる。フランスの精神分析学者、ジャック=カランが初めて定式化した。

